もうひとつのコワイ童話  〜 七人のいけない小人たち 〜 第6章 ナオミ  姫は、両手でお椀型の船を作りました。それに、わたくしたち七人を一度に乗せます。 校舎の前庭にやさしく着陸しました。快適な空の旅でした。  人間が作った、どんな乗り物よりも安全でしょう。  わたくしは職業的な癖で、乗客の仲間の無事を、一人一人確認しておりました。異常は、ありませんでした。 「あとは、そこで、見ていて頂戴ね」  そう言いながら、姫はパンティを脱いでいかれました。まったく恥じらいもなく、美しい生まれたばかりの姿になっていきました。当然でしょう。  なんてゴージャスな体なのでしょうか。  神々しいといっても良いぐらいです。  姫という敬称では全く不足です。  わたくしは女神さまと御呼びしたいぐらいなのです。  美を展観することに、何の恥じらいが必要でしょうか。  大自然の風景は、そんなことは全く無視して、ただ卑小な人間なるものの眼前に、美しく雄大に存在するだけなのですから。  大洋を遊泳するクジラに、人間の目を気にする必要があるでしょうか。姫も、同じでした。  人間の尺度など、無視してよろしいのです。  ピンクの校舎の屋根に、ピンクのパンティがパラシュートのように、風を巻きおこしながら、優雅に落下してきました。  ばさりと覆い被さっていきました。瓦が、何枚か前庭に落ちて脆くも割れていました。たいした被害ではありません。また直せば良いのですから。  お分りでしょうが、わたくしは、いつもサキさんと姫の理解については、するどく対立しております。  親友を失っているということですから、無理もない点は確かにあります。  しかし、わたくしは、口にこそ出しませんが、あれは単なる事故のようなものと考えております。  飛行機の着陸する滑走路を、人間が徒歩でのろのろ歩いていたとしたら、非は人間の方にあるのではないでしょうか。    自業自得というものでした。  姫の巨大な両手が、肉の谷間に埋没しております。  巨大な二本の足が、竜のように空中を乱舞しております。なんと美しい舞踏でしょうか。須美子さんの言うように、危険極まる頭上の脅威でしたが、それだけに美しさが増していました。  女体の美と生命への讃歌と言っても、過言ではないでしょう。  この点で、わたくしは、須美子さんの姫への理解も、残念ながら浅いと評価せざるを得ません。  彼女は、この七人の中では、もっとも優れた知性と教養の持ち主でしょう。  しかし、俗世の汚い垢を、いまなお全身に、厚い恥垢の膜のようにこびり付かせているのです。  やがて、姫という偉大な存在の意義に気付かれることでしょう。  わたくしは、その時が来るのを、静かに待っているのです。  虚心坦懐に、事実を直視すれば、ここはすでに人間の世界ではありません。  わたくしたちの二十倍の巨人が君臨する、女神の国だということが、理解されるはずなのです。  ここは女神の全能の力によって守護された、女たちだけの世界なのです。  もうひとつの、あの暴力的で、汚らしく、厚かましい男という粗野なジェンダーは、ここまでは、けして侵入してきません。  同一のジェンダーの純粋な楽園が、この土地なのです。  わたくしたちは、すべてペアのカードを作っております。  須美子さんと、友美さん。  サキさんと、ちひろさん。  そして、わたくしナオミと、愛らしい小百合さん。  小さ子さんが、余ってしまいますが、彼女はジョーカーのようなものです。  わたくしたち「七人の小人たち」の象徴的な存在でした。  小さいからどこにでも入り込め、すぐに一緒になって楽しめるのです。  それにこのペアは、時には意図的にシャッフルされることもあります。  わたくしも、小さ子さんの舌での愛撫を堪能しているひとりです。彼女はすごいテクニシャンでした。  海外生活が長く、多くの国や民族の技術を学んだ、わたくしでさえ知らないような業を繰り出してくるのです。  姫の支配にもっとも、先鋭に反対する意見を表明するサキさんも、姫のオージー(狂宴)の後で、わたくしたちが、その波動に影響されて、どのように激しい夜を過ごすのか、良くご存じのはずでした。  それが、どのように団結心を強めているか、計り知れないほどです。  姫は、決して敵ではなく、わたくしたちは悲劇の戦士ではありません。  みなさんは、失礼なことに、若い姫の匂いについても、どうこういわれます。温厚な友美さんまでが、そうです。  しかし、それが実は、わたくしたちの心の平安を与えてくれる効能を秘めた、アロマテラピーの芳香なのだということには、気が付かないのです。  わたくしたちを、女性という同じジェンダーの色に、染めてくれているのです。  わたくしは、サキさんも、やがては説得できると確信しています。  七人の中で、小さ子さんは不明ですが、おそらくサキさんだけが、わたくしと同じ世界に、この国に連れてこられる以前から、長いこと住んでいた人なのです。  同族は、匂いで分かりますから。  姫の存在という強力な重力場がなかったとしたら、サキさんは、この中の何人と現在のような肉体的な親密さで、知り会えたことでしょうか。  はたして女子中学生のちひろさんを、自由に抱けたでしょうか。  のびやかで豹のような姿態の須美子さんなど、永遠に高嶺の花だったでしょう。  小さ子さんという、性の妖精のような人間が現実にいるでしょうか。彼女は、あらゆる要求を受け入れて、けして拒まないのです。聖人のような方です。  ちひろさんが、小さ子さんを生理の道具として、活用しようとしたときに、須美子さんが、止めました。  あれだって、現世の人間の道徳を、女神の世界にまで引きずりすぎています。本人が拒まないのだから、よいではありませんか。  須美子さんが、権威主義の仮面を一日も早く脱ぎ捨て、楽になることを、わたくしは一人の友人として、祈らずにはいられないのです。  彼女は、架空の義務感に縛られて、疲れ果てているのです。愚かなことでした。   さらにわたくしには、小百合さんから、みんなには秘密にしていてくれと、寝物語に聞かされた、とっておきの話があるのです。  それは、現在のメンバーでは、小さ子さんと、小百合さんしか知らないむかしむかしのことです。                    *     その時、お姫さまは、とてもお腹をすかしていました。  朝から、ほとんど何も口にされていなかったのです。成長期の、お姫さまとしては、さぞかし、つらいことだったでしょう。  黒のドレスを着ていられました。  ベッドに、ぼんやりと腰を下ろしていられました。無意識に、右手の指先を吸いたそうに、そっと唇に触れていました。  ベッドに座って、きれいに磨いたぴかぴかと光る黒い靴を履いた足を、ぶらぶらされていました。  何事かを、待っているという風でした。  その日は、何となく慌ただしい日で、女神の部屋からの出入りも頻繁な日でした。  その隙に、ある小人がドアの隙間から這い出して、廊下を歩いていたらしいのです。そこを捕まえられて来たのです。  左手に、脱出しようとした小人を、片方の足首を持って頭を下にして、ぶらさげていました。 「さて、おまえをどうしてやろうかしら」  お姫さまは、歌うように、そう何回も繰り返されていたそうです。  その時、ドアにノックの音がしました。 「雪子、そろそろ時間よ」  大人の女性の声でした。 「はい、ママ。今、行くわ」  お姫さまは、そうすぐに答えられました。が、ドアが音を立てて開いて行きました。  手の中の小人を、どうすればよいのでしょうか。キーきーっと、小さな悲鳴をあげてもがいています。  ここで、お姫さまは、実に子供らしい、無垢なひらめきを発揮されました。  口をあーんと大きく開いて、小人をぱくりと一呑みにされたのです。  声も止んで、すぐに静かになりました。  ごくんと、喉が大きな音を立てて、鳴ったそうです。  ドアに、やはり黒いドレスの、姫よりもさらに巨大な女性の姿が、立っていたそうです。 「遅れないでね」 「はい」  姫は、さっとベッドから滑り下りると、部屋から出ていきました。  長いこと戻らなかったそうです。                        *  姫は、すでに人間の倫理の尺度を越えられているのです。これほどの強大な力を持った人間は、もはや女神に変身していられるのです。  須美子さんが、どのように教育しても、無益なのです。  飛行機は、落ちるときには落ちますし、巨人は、お腹がすけば、小人を一呑みにできるのです。  それにしても、美少女に、食われるというのは、なんとすばらしい運命なのでしょう。熱くて湿った世界で、胃酸に消化されて、溶解していくのです。  体内に吸収されて、その肉体を構成する細胞の一部になれるのです。姫に不要な分は、大小便として、捨てられていくのです。  これは、胎内回帰。子宮回帰という人類に普遍的な願望の、現世に於いては、もっとも完璧な成就の形態ではないでしょうか。  姫が、ちひろさんに明確に言明されたように、下半身から直接に姫の子宮に到達する門は、わたくしたちには固く閉ざされています。  わたくしたちの華奢な肉体が、何よりも、その試練に十分に長い時間、耐えられないからです。  しかし、上半身の門は、日夜開いています。  わたくしは、姫の凄まじい食事の風景を、至近距離で鑑賞しているだけで、エクスタシーの雷鳴に打たれたことが、何度あることでしょうか。  ピンクの濡れた口腔の粘膜は、エロティックなものです。  食道の蠕動運動は、膣が種族を保存しようとする本能の命じるままに、あの臭くていやらしい精液を吸い込もうとするように、自然な営みです。  わたくしたちは、それに運ばれるままに、長い肉の通路を下降していきます。  少女の胃のなかに、生きたまま飲み込まれた、幸運な使徒は、最期の時が来るまで、どのような至福の時を過ごしたでしょうか。  皮膚が、胃液に溶解されるときには、激痛があるでしょう。しかし、脊椎が、溶ければその苦痛もすぐに消滅するのです。  あとは、暗い暖かい深淵の沼に、身を浸してさえいれば良いのです。  死と変容が、旅路の果てには待ち構えています。 「ナオミさん、痛いだよ」 「あっ。ごめんなさい」  わたくしは、夢中になるあまり、パートナーの小百合さんを背中から抱いたままで、大きな両の乳房を、両手の掌に握り潰していました。  彼女は、女性美の権化のような豊満な肉体の持ち主でした。  小百合さんを、「七人の小人たち」の一人に、加えるところなど、姫の美的感覚は、実に鋭いものがあります。  女性美というものを、理解されている証拠でした。    (七人のいけない小人たち 第6章 ナオミ 完)