もうひとつのコワイ童話  〜 七人のいけない小人たち 〜 第2章 須美子  「みんな、気をつけてね。姫が興奮しているわ」  須美子がそう注意を促したときには、友美が、巨大な少女の足の指の間に囚われの身になっていた。  看護婦姿の彼女が、白い胸元の起伏に無事に軟着陸したのを見て、須美子は心から安堵していた。   友美は、別に看護婦ではない。しかし、OLの制服姿の須美子は、少女の支配する世界に来るまで、ノーマルな現実の世界では、実際にその種の仕事をしていた。  白いブラウスに、灰色のベストと同色のミニ・スカート。ストッキングに黒いハイヒールという制服。  それは、須美子の真面目そうな表情と、伸びやかな長身(なんと皮肉な言葉だろうか)の肢体に良く似合っていた。  外資系の貿易商社で、日本で言えば、課長代理ぐらいの地位に迄は、二十代に上り詰めていた。そのことが密かに得意でもあった。  友美は、実際は、彼女の直属の部下の一人だった。大卒の新人だった。  須美子は、もうここでは、過去の肩書きに何の意味もないと分かっているくせに、友美にたいしては、上司としての責任を、いまなお感じているのだった。  なんとか、もとの世界に戻れる日までは、その意識が消えることはないだろう。  しかし、何分、常軌を逸脱した世界である。ここでは、彼女にも、できることは、ごくわずかだった。  少女の足は、須美子の九センチメートルの身長の、三倍近い高さにそびえる肉の壁だった。  まして姫の二十メートルになろうとする足全体を、何にたとえれば良いのだろうか。  血と肉と骨でできた、白いジャンボ・ジェットの機体だろうか。  ひきしまった足首でさえ、彼女たちが三人がかりで手を回して、ようやく抱き抱えられるかどうかの太さなのだ。  太股の谷間は、一番深いところでは、彼女たちの身長の二倍の高さがあった。内側に入ってしまえば、向こう側を見ることなど、とてもできなかった。  その長い長い肉の作る回廊の奥に、ワイン・レッドのブルマーの厚い生地に包まれた聖域の崖があった。  そこがこのベッドの上の国での、彼女たちにとっての、事実上の国境であり行き止まりだった。身長の二倍以上はある谷間だった。  五本のひとつひとつが大蛇のような右手の指が、怪獣の奇声のような衣擦れの音を立てて蠢いていた。中指が、主役となって活躍していた。  壁の一ヶ所を、執拗に攻撃していたから。  そのたびに足全体が、前後左右に自由自在に揺れていた。空気をかき回すようにして動いていた。  あそこの下に巻き込まれたら、須美子は瞬間に、ぐちゃぐちゃの肉の塊に変化してしまうだろう。   ブルマーに深い皺がよっていた。白いパンティが、股間からはみ出ていた。  しかし、友美は、そのさらに彼方の、白い山の高原に拉致されていったのである。少女の呼吸が、遠い台風の風の音のように響いてくる。  無事を祈る以外に、須美子にできることは、当面、何もなかった。    そうだとしても彼女は、気丈にみんなのまとめ役となっていた。望んだわけではなかった。気が付いたときには、何となくというように、なっていた。  「七人の小人たち」の中では、須美子の二十九歳という年齢が、最年長者ということになるためもあった。  年の功で、姫に直接に交渉するのが、彼女の役目になっている。  主な仕事は、生活の中で必要な物品の目録を作り、要求することである。  却下されるものもいくつかはあったが、ほとんどの場合は、要求はそのままに通った。遅かれ早かれ、姫は、なんとか調達してきてくれた。  すべてが、彼女たちの使えるサイズに縮小されていた。  須美子は、姫の物体を縮小する力の限界を見定めたくて、わざといろいろな素材のものを混ぜているが、今のところ何でも可能のようだった。  姫の巨大な左手が、目にも止まらぬ速度で、上空を飛翔してきた。圧迫された空気の風が吹いて来る。  姫は、飛行機の胴体のような手足を、このように、時折、何の予告もなく凄いスピードで、移動したり飛行させたりするのだった。  彼女達が、それにちょっと触れてかすられただけでも、即座にお陀仏だった。危険極まりなかった。  その左手が右手と一緒になって、ブルマーの胴のゴムの部分を掴んだ。  強い力で、腹部の方向にひっぱり上げている。厚い生地が、極限まで延びていた。ぎゅううっと、重い苦しそうな悲鳴を上げていた。  少女の割れ目の形が、そこにくっきりと刻まれていた。左右の陰唇の形までが、はっきりと盛り上がって見えていた。  があおおおっ。  姫が咆哮していた。怪獣の雄叫びだった。現実には、きっと「ああんっ」ぐらいの圧し殺した可愛いあえぎ声なのだろう。  彼我の体格の差が、この大音声の原因だった。分かっていても、心臓を鷲掴みにされるような圧迫感があった。 「あああ。今日のお姫さまは、すっかり舞い上がってしまわれてるわよ」  須美子は、みんなの恐怖感を緩和させようとして、ことさらに軽薄な口調でそういった。サキのかすれた笑い声が、どこかでしていた。  「みんな、下がってちょうだい」  須美子は、手でも大きく指示を出した。  六人は無事に、校舎の前庭まで後退した。木の棚の前の、建物を置いた後の余白の部分を、彼女たちは、こう呼ぶ習慣だった。  これで、彼女たちにとっては、姫の足の先端からでも、十メートル以上の距離が開けられたように思える。しかし、姫にとっては、それは五、六十センチに過ぎなかった。  安全とは、程遠かった。ただ嵐の船の甲板のように、ぎしぎしと揺れる歩きにくいベージュのベッドの上から、脱出できたというのに過ぎなかった。  須美子も、この十二歳の少女に、彼女の五センチが、自分たちにとっては一メートルにあたるのだということを、何度も繰り返し説明していた。  「七人の小人たち」にとっては、姫は、身長百六十センチメートルの可愛い小学生ではなくて、身長三十二メートルの女性ウルトランマンのような巨大美少女なのだ。  姫は、利発で飲込みの早い子だった。内容そのものはすぐに理解してくれた。普段は、気をつけてゆっくりと移動してくれていた。  しかし、今日のように、欲望というような激しい感情に流されているときには、須美子の苦心の教育と指導も、全く用をなさなくなるのだった。  かろうじて、揺れる胸元にしがみついている、看護婦姿の友美が望めた。振り落とされまいとして必死だった。  明らかに、姫は、自分の巨大さを誇示して、楽しんでいるのだった。友美は白鯨と格闘するエイハブ船長のようだった。けれども、その手には、銛さえないのだった。  「女の臭いがするわね」  ナオミが、そううっとりとつぶやいていた。  七月の少女の部屋の空気には、確かに姫の体臭が漂っていた。  「七人の小人たち」は、全員が姫の足臭にまみれていた。汗と埃が全身の皮膚に気味悪くねっとりとへばりついていた。  鼻孔の奥の粘膜にまで、それはしつこく侵入していた。  それにもかかわらず、須美子達は、女体の特有のフェロモンを嗅いでいた。  数千人の女が、一度にオナニーをしている異常なショーの会場にいるかのようだった。  姫が、思春期で、特に体臭の強い年頃であるせいかもしれなかった。新陳代謝が活発なのだった。  ナオミは、花の芳香を嗅いでいるような表情だった。  友美の悲鳴がした。  少女の乳房に、跳ねとばされそうになっているのだ。この距離から眺めていても、山頂に生地を押し上げている固いものがあった。  友美は、そこにしがみついていた。姫の乳首が勃起している。  ぐおおおっ。  再び姫が、吠えた。  少女のSEXは、挿入というはけ口を見いだせないために、際限なく燃え上がっていくのだった。  須美子もつい三日前、あの肉の船の乗客だった。あの時は友美と一緒だった。ひきしまった贅肉ひとつない腹筋の上だった。  姫の、腸内雑音(グル音)が、ひっきりなしに聞こえていた。地下鉄の構内にいるような感じだった。人食いの巨人に捕まったようで落ち着けなかった。  不安だったが、須美子は燃えた。彼女は全裸の友美と、同性のSEXの実演をさえられたのだった。  須美子は、その時のことを思い出している。  自分が英語で言うホーニー(角を立てる牛)の状態になっていることを意識していた。ミニ・スカートの下の、灰色のビキニのパンティが濡れていた。  姫の巨大な肉体から放射される欲望の波動に、自分の肉体が共鳴しているような気がした。   あがああっ。  須美子達と、校舎が乗っている棚が地震のように鳴動していた。窓ガラスが、割れそうに鳴っていた。  姫は、巨大なワインレッドの尻を上空に持ち上げていった。  ブルマーが、奇妙な惑星のように、空中に静止した。  長い長い二十メートルの二本の足が、湾曲した肉の橋のようにかかっていた。さっきまで、須美達が磨いていた足の指が、その途方も無い重量を支えていた。  体重を受けて白い肌の中でもさらに、象牙のように白く変色していた。   汗の粒が、吹き出してきていた。    足とブルマーの向こうで、友美の姿は、全く須美子の視界から消え失せていた。  姫のブルマーの尻にどこでつけてきたのか、一本のステッキぐらいの茎がぶらさがっていた。それが振り子のように揺れるのを、須美子は茫然と眺めていた。  来るべき時を予知して、須美子は両耳に指を入れて。その場所に蹲った。  他の五人の女たちもそれにならった。  おおおおおーん。  姫が絶叫していた。  大音声は、耳ではなくて直接に大脳を振動させていった。  脳震盪を起こしそうだった。しかし、須美子は、その時、小さ子さんが立ち上がっていることに気が付いた。  茫然と、前庭の端の方にたたずんでいる。誘われるように、ふらふらと足が前に出ていた。彼女は、須美子の腰ぐらいまでしかない。 「小さ子さん。あぶない」  須美子は、小さ子さんを両手で抱き締めるようにしていた。  そして。  しばらくの間。  やがて。  ずしーん。  大地が震えた。  姫が、尻を巨大な隕石のように落下させたのだった。  須美子は、小さ子さんを胸に抱いてかぼうようにしていた。そのままの態勢で、跳ねとばされて後方に横転していた。ハイヒールが前庭の木の床の上で滑ったのだ。  校舎の木の壁にぶつかってようやく止まった。少し脇腹を打った。  ごおーっ。ごおーっ。  風がうなっていた。姫の激しい呼吸だった。  (七人のいけない小人たち 第2章 須美子 完)